自分に向かって、臣下の礼をしめす理事長に、九鬼は首を横に振った。

腰を下ろし、片膝を床につけると、九鬼は理事長と目線を合わした。

「あたしは…人々を導けるような人間ではありません。多くの人も殺めました。それに…」

九鬼は乙女ケースを取りだし、黒い表面を見つめ、

「乙女シルバーに、完全になることはできていません」

ケースを握り締めた。

その様子を見た理事長は、立ち上がった。

そして、再び歩き出した。

九鬼の横を通り、机の向こうに戻ると、何もない壁を見つめた。

「…それは、仕方がないのかもしれません」

理事長は振り返り、

「あなたの肉体は、闇の女神デスパラードの器になるべきはずだったもの…。しかし!」

九鬼の目を睨み、

「その身に宿る魂は、初代乙女シルバーそのもの!」

「!」

理事長の言葉に、九鬼は目を見開いた。

「初代乙女シルバーは、闇の女神との戦いで命を落としましたが…乙女ケースに、デスパラードの魂を封印した。さらに、彼は...いずれ封印が解け、復活することを見越して…デスパラードの肉体となる者に、転生することを望んだのです」

理事長はそこで目を伏せ、少し躊躇った後、睨むように九鬼を見た。

「虚無の女神の力で…」


「虚無の女神?」

聞いたことのない…新たな女神の名に、九鬼は眉を寄せた。

「申し訳ありません!」

突然、理事長は机に両手を突き、深々と頭を下げた。

「そのことを、初代乙女シルバーに進言したのは、私達黒谷家の先祖!私達の先祖は、虚無の女神と通じ…あなた様の魂に呪いをかけました。闇の女神の器が、生まれ…封印が解けるその日まで、生まれ変わることがない呪いを!」

理事長は顔を上げ、九鬼を見た。その目には、涙が溢れていた。

「故に、あなたは…あなたこそが、唯一の乙女シルバーなのです!」