「うわあああっ!」

突然、ライが叫んだ。まるで泣き叫ぶように。

そんなライに、女の人は悲し気に目を伏せた。

「ごめんなさい…。あなた…すべては、あたしがいけなかった。あなたを狂わせてしまった」

床に、一筋の涙が落ちた。

「違う!俺が、お前を守れなかったのだ!」

ライは首を横に振り、その名を呼んだ。

「ティアナ!」

「あなた…」

ティアナは涙を拭うことなく、ライに向かって走り出した。

両手を広げ、ライはティアナを待つ。

ティアナが、ライの胸に飛び込み…ライが、ティアナを抱き締めた時…すべては終わった。


「うぐぅ!」

ライの手に握られていたのは、シャイニングソードだった。

そして、シャイニングソードはライの心臓を貫き、背中まで突き抜けていた。

「ライ!」

まるで、自害したかのような姿のライに、僕が駆け寄ろうとすると、

「来るな!」

ライの目が輝き、最後の力で僕を吹き飛ばした。

「く!」

玉座の間の扉近くまで、後ろに下がった僕が再び、ライに近付こうと顔を上げた時には、彼の体は光の粒のように足下から分解していた。

「赤の王…いや、赤星浩一よ」

ライは消滅しながらも、僕に微笑んでいた。

「娘を…を頼む…」

「!」

僕は目を見開いた。

目の前にいるのは、魔王ではなく…1人の父親だった。

「フッ」

驚く僕の顔がおかしかったのか…ライは笑いながら、消滅した。

光になることが、定めだったかのように。

それはまるで…万物流転。

氷が水になり、水蒸気になって、空へ流れていくように…すべてはものは、常に形を変えて、移り変わっていく。

彼の心はやっと…流れたのだ。永遠に続いたかもしれない呪縛から。

心臓に突き刺さっていたシャイニングソードは、ライが消滅すると同時に床に落ちると、分離して…どこかに飛んでいった。

「…」

静けさが支配するようになった玉座の間で、しばし立ち尽くす僕は…数秒後、世界の変化に気付いた。

「雷が…止んでいる」


世界を覆った雷雲は、ライの消滅とともに姿を消した。

青空が戻り…世界はいつもと変わらない自然な姿を取り戻した。