(それは…あなたこそがご存知のはず)

カイオウは心の奥底で、そう呟いていた。

ティアナ・アートウッドを失ってから、ライは人を憎むようになったと、カイオウは思っていた。

(愛する御方を失い…狂うとは…まるでにん…)

続く言葉を飲み込むと、カイオウは玉座の間から回廊を歩きながら、進行方向を見つめ、別の言葉に変えた。

(愛故にか…)

勿論、最高位の魔神であるカイオウは愛を知らない。

愛するという意味が、子孫をつくり、次に繋げるという意味ならば…神に必要はない。

完璧な生物。すべてを超越した存在ならば、そのようなものは不要であろう。

しかし、生きるという意味であればどうだろうか。

完璧な1人であれは、仲間はいらないのだろうか。

完璧なものが集まれば、完璧でいられるのだろうか。

答えはNOだ。

同じ型で作られた無機質ならば、同じであろう。

しかし、生きるということは同じではない。

同じ環境で育ち、同じものを食べ、同じものを聴いたとしてもまったく同じ存在にならない。

だからこそ、完璧な存在などあり得ない。

それぞれの価値観で完璧さも違うだろうからだ。

そして、だからこそ…カイオウはティアナの弟子になり、人に興味を持った。

自分とは異なる存在。

そして、完璧ではないとしても、そこにある凛とした佇まいは、完璧を越えた美しさがあった。

カイオウはいつのまにか、渡り廊下に来ていた。

植えられた草花を見て、カイオウは頭を下げた。

(その美しさ故に、散りゆく運命は、あの方と同じ)

ゆっくり頭を上げ、

(そして、人間はまだ芽が出ない種と同じ…。いかに咲くのかは、己次第)

草花の横を通り過ぎていく。

(芽を出さずに、土の中で過ごすのも…咲くことなく、枯れることも…すべては己)

カイオウは、離れへと入った。

(その人間の可能性がある限り…我は、人間を癌細胞とは思わない。例え…咲くことができるのが、一瞬だとしても)

カイオウの脳裏に、ティアナと…そして、アルテミアが映る。

(人は、次の花を咲かす。新たなる種を残して)

カイオウは自然と、微笑んでいた。