「癌細胞でできた人間?」

魔界の深部に入ろうとしていたジャスティンのもとに連絡が来たのは、夕暮れの時間だった。

そして、そこからがある意味…ジャスティンが求める時間だった。

闇が支配する魔界こそが、鍛えるのにちょうどよかったのだ。

少し考え込んでから、ジャスティンは暗くなっていく森の中で、足を止めた。

「なるほどな…」

そして、割れたブラックカードを耳に当てながら、暗くなっていく前方に目を細め、軽く笑った。

「悪趣味だが…彼らしいな」

バサッと落ち葉を踏む音がした為、ジャスティンは少しだけ腰を屈めた。

「…とにかく、今は人々の安全を第一に動いてくれ。やつらの襲撃を察知した場合、防衛軍が蓄えている魔力を使って、人々を安全な場所にテレポートさせろ!」

ジャスティンは指示を出しながら、カードを持っていない右手を大木に叩きつけた。それも殴るではなく、擦る感じでした。

その為、手の甲の皮が破れ、血が流れた。

「やれやれ…」

通信を切った後、ジャスティンは溜め息をついた。

「人間か…」

いつのまにか、魔物の気配が増えていた。

ジャスティンが流した血の匂いを感じて、魔物達が集まってきたのだ。

勿論、その為に敢えて、血を流させたのだが…。

「たまに思うよ」

ジャスティンの血が流れている手の甲を見つめ、

「人間とは…こいつらにとって、餌だとな」

ゆっくりと視線を前に戻した。

「だが…だからこそ」

そして、ジャスティンは全身から力を抜いた。

「どう生きるのかが、大切だ」

「キイイイ」

魔物の奇声が、後ろから聞こえた。

どうやら、囲まれたらしい。

「俺は、人の未来の為に道になろう!」

構えは自然だが、視線は鋭く森の奥を睨んでいた。

いや、奥ではない。森を越えたさらに向こう。

「王よ!」

ジャスティンは一歩、前に出た。

「人間は癌細胞ではない!」

そして、一気に駆け出した。

「そのことを一番わかっているはずだろうが!」

数秒後、早くも…ジャスティンによって数匹の魔物が倒されていた。