「フン!下らない」

ライの居城から、離れまで伸びる渡り廊下。そこに植えられた花々を見つめながら、リンネは顔をしかめた。

その後ろで、控えるユウリとアイリ。

彼女達が、何かを言うことはない。

「あんなものが、愛な訳がない」

リンネは花に手を伸ばしかけて、止めた。

そして、しばし…花を見つめた後、

「フン」

また鼻を鳴らすと、城の方へ廊下を歩き出した。

その後を静かに、ユウリとアイリが立ち上がると歩き出した。

「…」

3人が消えた後、離れの影から渡り廊下に姿を見せたのは、刈谷であった。

「リンネ様…」

呟くように言うと、リンネ達が去った方に、深々と頭を下げた。

それから、リンネが手を伸ばすことを躊躇った花々の前まで移動すると、じっと見下ろし、

「貴女は…花より美しい」

ゆっくりと手を伸ばし、花に触れた。

「こんなものよりも…」

そして、花を握り潰した。



同時刻。

人間もどきによる襲撃と増殖が一段落したことが確認された防衛軍本部では、対策が急がれていた。

「あのもの達は、何だ?」

白で統一された建物内を闊歩する副司令官の後ろを、隊員達が続いていた。

「やつらの細胞のサンプルは、採取しておりますが…まだ分析は終わっておりません」

白衣を羽織った科学班だと思われる隊員の答えに、副司令官は苛立ちを露にした。

眉を寄せ、

「急がせろ!」

と告げると、

「は!」

白衣を羽織った隊員は頭を下げて、隊列から離れた。

そんな白衣の隊員の後ろ姿を、明らかに高官だと思われる白髪の男が、振り返り目を細めた。

「科学ですか…。そんな迷信…。やはり、私には信じられませんな」

呟くように言った男の言葉に、副司令官は前方を睨みながら、

「カードシステムやディグシステム…。科学という理論がなければ、なし得なかった技術は多い。我々人類が生き残る為には、科学という知識も必要だ」

西園寺によって、旧防衛軍に導入された科学という知識は、新生防衛軍でもいかされることになった。