街のある大陸を越え、海へと出た。

「それに、あたしのことは…お前が知ってるだけでいいよ」

アルテミアは海上で止まると、顔を真っ赤にしながらそう言った。

「ア、アルテミア」

そうはっきり言われると、僕も照れて来た。

「そうだよ!僕は、本当のアルテミアを知っているよ!世間の噂話と違うことを!」

僕の言葉を聞いて、アルテミアの顔がさらに真っ赤になる。

「アルテミアは、真の勇者だ!お母さんのティアナさんにも負けない程の!」

「あ、赤星…」

アルテミアの顔は、さらに真っ赤になり…ついには、口を手で押さえ始めた。

「アルテミアは!」

照れながらも、普段言えないことを伝えようとした僕の言葉は…すぐに、遮られることになった。

「あ、赤星…も、もう駄目…」

「え」

「うぐぅ!」

アルテミアは手を離すと、口からさっき食べたものを海に向かって吐き出した。

食べ過ぎだった。

ほとんど消化させていない食材が、海に落ちていった。

食べて直ぐに、飛び回ったことも、敗因だった。

「…」

好きな人のゲロを目の前で見るという…奇特な経験をした僕は、思わず…言葉を失った。

「赤星…変われ…」

「え!」

「モード・チェンジ」

有無を言わさずに、アルテミアは僕に変わった。

「う!」

同じ体を有する僕らは、変わると同時に…気分の悪さは僕のものになった。

「う!」

また吐き気が襲ってきた。

何とか堪えながら、僕はアルテミアを恨みそうになったが、考え方を変えた。

好きな子の苦しさを、変わってあげることができんたんだから、よかったと。

本当は、都合のいい話だが…そうと思わないと、やっていけない。

惚れたものの弱味である。

(仕方がない…)

そう思いながら、何とか海に落下するのを堪えながら、僕は休める島を探した。

さすがに、アルテミアに僕のゲロを見せられない。

(それが…好きな相手に対する思いではないのか?)

少しそう思ったが、本人に言える訳がなかった。