魔物を全滅させると、アルテミアは一番近い街へと降下した。舗装された道路に、ふわりと着地すると、エンジェル・モードを解いた。

「何か食べるか!」

ジーンズに、Tシャツというラフな格好になったアルテミアは、道路を歩き出すと、すぐに異変に気付いた。

「うん?」

街が静まり返っているのだ。

まるで、ゴーストタウンのように。

「人の気配はあったぞ」

アルテミアが足を止め、横を見ると、ドアの隙間から見ていた子供と目があった。

しかし、慌てて母親が抱き上げると、ドアを閉めた。

その行動で、アルテミアはすべてを理解した。

つかつかと歩き出すと、クローズとなっているカフェの前に行った。

「ア、アルテミア?」

僕も理解した。ピアスの中から、カフェの内を覗いた僕は、机の下に隠れる人々を目にした。

まるで、防災訓練のような店内に、うずくまり身を震わす人々。

「ア、アルテミア…。別の街に行こうか!」

何とかこの街から離れるように、説得しょうとした僕の声を無視して、アルテミアは怒声とともに、木製の扉を蹴った。

「いるのは、わかってんだよ!オラ!」

まるで、実世界の借金取りのように、何度もドアを蹴り、脅すアルテミア。

「ひええ〜!」

店内から、悲鳴が聞こえた。

「馬鹿にしやがって!」

アルテミアの蹴りで、木製の扉はふっ飛び、店内で回転した。

「あたしは、飯が食いたいだけなんだよ!」

アルテミアの怒声が、街中に響いた。



数分後…アルテミアは、街の中心地の広場にいた。

大層な椅子が用意され、目の前に山のような料理が並んでいた。

そして、それらの向こうで土下座する人達。

「ど、どうか…。天空の女神様。今回のご無礼は、こちらの料理で…お許しの程を」

先頭で土下座する街の代表と思われる小太りの男は、明らかに怯えていた。

「どうか…子供達は…」

懇願する代表者を見て、僕は怯え方が尋常ではないことに気付いていた。

「ア、アルテミア…」

「…」

アルテミアは僕の声に気付かずに、顔を横に向けると、人々ではなく、町並みを眺めていた。