その言葉に、サラは足を止めた。

なぜならば…そういうことを口にしたのは、初めてだったからだ。

ある種、裏切りの意志とも取れる…その言葉に、ギラの決意が感じられた。

しかし、魔王を補佐する存在とすれば、許される言葉ではない。

ギラは、サラに襲われても仕方がないと覚悟していた。

しかし――。

「そうか…」

サラはそれだけ言うと、再び歩き出した。

ギラはサラの方を見ることなく、虚空を見つめていた。


廊下に響くサラの足音が聞こえなくなると、ギラはゆっくりと壁から離れ、歩き出した。


静寂が、城を包んでいた。

それは、落ち着き…平穏な空気ではなく、すべてが壊れる前の最後の静けさかもしれなかった。

昔のように闇の中、玉座の間で、鎮座する魔王。

しかし、その目はぎらつき、あらゆるものを畏怖させていた。

闇さえも、震えているように思えた。

「ティアナ…」

ライは、最後の良心を口にした。

「我は…もう…人はいらぬ。この世界に人はいらぬ」

ライは呟くように言うと、闇の中にティアナの幻が浮かんだ。

その姿は、最初に出会った時と同じだった。

白い鎧に、ライトニングソードを構えた姿。

そのまま、ライに襲いかかってくるが…ティアナはライの額に突き刺す寸前で、剣を止めた。

目の前で、悲しく微笑むティアナ。

そんな彼女の胸に、ライは手刀を突き刺した。

その瞬間、ティアナの幻は消えた。

「!?」

しかし、今度は…貫いたライの手の中に泣き叫ぶ赤ん坊が、現れた。

そして、玉座の後ろに嬉しそうに微笑むティアナがいた。

「!」

目を見開き、赤ん坊をも握り潰そうとした時、目の前にブロンドの髪を靡かせたアルテミアが立っていた。

「!」

絶句するライが再び、手刀を突きだすと、アルテミアはそれを避けて、シャイニングソードを突きだした。

剣先が、自分の心臓に突き刺さる寸前、ライは玉座から立ち上がった。

しかし、そこには誰もいなかった。

再び座り直すと、ライは目を閉じた。

「アルテミア…」

そう呟くと、闇に沈んだ。