「雲の流れが速い」

ライの居城の前に広げる向日葵畑の中で、カイオウは空を見上げていた。

ライの結界により、監視衛星からは見ることのできない魔界であるが、その土地からは晴天を見ることができた。

空の異様な速さに、カイオウはこの世の中の動きを重ねていた。

魔王ライの復活。さらに、赤星浩一の復活は、しばらく止まっていた運命をいやがおうにも動かすことになるだろう。

「ティアナ様が生きておられたら…」

この運命を変えることができたであろう。

だが…しかし…。

「馬鹿者が」

一瞬でもそんなことを考えてしまったカイオウは、己を恥じた。

死んだ者にすがっても仕方がない。

今、生きている者こそが、道を切り抜けられるのだ。

「我のような年寄りができることは、知れている。大人しく去るか…それとも」

カイオウの手に、青竜刀が握られた。

「次の世代の為の道を開くかだ!」

「道ねえ〜」

青竜刀を空に向けて突き上げたカイオウの後ろから、声がした。

「!」

次の瞬間、カイオウは真後ろに向けて、横凪ぎの斬撃を放った。

「危ないわね」

青竜刀は、後ろに立った者を切り裂いた。しかし、真っ二つになった体は、すぐに一つに戻った。

「不用意に、我の後ろに立つからだ」

カイオウは、後ろに立つ女を睨んだ。

「リンネよ」

カイオウの眼力の鋭さに、リンネは肩をすくめて見せた。

「だって〜気になるじゃない。次世代の為に、道を開くなんて」

そう言いながら、リンネは腕を組み、カイオウにいやらしい笑みを向け、

「ライ様の治世はまだまだ続くわ。次の世代など、来ないのよ」

「そうかな?」

カイオウは青竜刀の刃を水平にすると、リンネの首筋に射し込んだ。

「時代の変化は、近付いておる。ティアナ様が残した希望であるアルテミア様の成長…」

カイオウの言葉に、今度はリンネがキレた。

「あのねえ〜」

自ら刃を首に突き刺すと、

「ティアナは死んだ。そして、アルテミアは王に逆らったわ!」

カイオウを睨み付けた。