直撃し、血塗れになりながらも、サラはライに向かって歩き出した。

「王よ…。落ち着いて下さい。あなたは、この世界の神です。何も恐れることはございません。あなた様に敵う相手など、この世界にはおらぬのです」

「だ、黙れ!」

ライの突きだした手の中に、荒れ狂う魔力の衝撃波が集まり、渦を作り出す。

「王よ」

サラは項垂れ、覚悟を決めた。

もともとこの身は、ライが創ったのであった。彼が、最初につくった側近として。

だからこそ、どんな相手に殺されるよりは…ライに殺されることは、本望であった。

(願わくは…本来のお姿を取り戻してほしい)

ゆっくと目を閉じたサラは、死を覚悟した。

しかし、サラは死ななかった。

「避けぬか…馬鹿者」

サラのすぐ目の前で声がした。

「!」

はっとしたサラが、目を開けて顔を上げた時、玉座の間から嵐は消えていた。

「勝手に死ぬな。もう誰も…我が目の前で…」

ライの突きだした腕は、サラの耳の横を通り過ぎていた。

復活したばかりで、完全に力が戻っていないライは、今の剣幕で魔力を使い過ぎてしまったのか…。手を突きだしたまま、崩れるように倒れていく。

「ライ様」

慌ててサラは、ライの体を受け止めた。

剥き出しの乳房の間に、ライの顔が埋まる。

その瞬間、サラの瞳から一筋の涙が流れた。

そして、サラはライの頭を抱き締めた。

「空牙様…」

自然と出たのは、その名前だった。

ぎゅっと、自らの胸にライの顔を押し付けた時、気を失ったライが呟くように言った。

「ティアナ…」

その名を聞いた瞬間、サラの全身が固まった。

それは、わかっていたことだった。

だから、サラはライから離れることなく、少しだけ深呼吸をした後、もう一度ライの頭を抱き締めた。

(この身は…あなたの為に…。我こそが、あなたの盾になります故に…今だけは)

再びサラの目から、涙が流れた。

しかし、それを拭うことはしなかった。