「フッ」

ジェースは、空を見ずに歩きだした。

「ジェース!」

純一の鋭い声に、ジェースの足が止まる。

純一は、目を細めて訊いた。

「どうして、殺した?」

その問いに、ジェースは笑い、

「それ以外の方法を、俺は知らない…いや、俺達は知らない」

また歩きだした。

「俺は…殺し屋だ。そして、ひかるもな。銃を抜いたら、殺してもいい。それが、組織の教えだった…」

ジェースは殺す以外の術を知らない…知る必要もない。

今は。

「そうか…なら、仕方ない」

純一は、ひかるの死体に目を落とした。

「だがな…お前は生きろよ」

そして、純一の呟くように吐き出した言葉に、ジェースは再び足を止めると、

「お前もな…」

それだけ告げた。

組織に育てられ…組織の教えしか知らない。

だから、殺した。

無機質な自分。

しかし…ひかるは、違った。

(お父様の仇!)

彼女はとても、人間臭かった。

そう思った瞬間、ジェースは思考を止めた。

咎人に、考えることは必要ないからだ。



「フゥ〜」

ジェースが去った後ため息をついてから、煙草を取りだし吸おうとした瞬間、純一は動きを止めた。

「いつから…いたんですか?」

「そうだな…。君と同時くらいだ」

吹き抜けの空間の角に、腕を組んだ男がいた。

「誰も気付きませんでしたよ。さすがは、元ホワイトナイツの1人…」

煙草をしまった純一が、感心したように言うと、男はゆっくりと歩き出した。

「クラーク・パーカー」

「元ホワイトナイツは、余計だよ。今は、安定者の1人になったからな」

角で身を潜めていたのは、クラークだった。

「おめでとうございます。異例の出世ですね」

純一が頭を下げると、クラークは首を横に振り、

「一番の末席。ただの盾みたいなものだ。その代わりに、君には防衛軍を辞めて貰ったしな。すまない」

クラークは頭を下げた。

「いいんですよ。それくらい…。もう防衛軍には、未練はありませんし…」