それから数年後…ジェースは組織の命令で、とあるメモに示された住所に向かった。

灰色の冷たい外色のビルに入ったジェースは、エレベーターが壊れていた為、階段で最上階に向かった。

ビジネスビルのようだが、人の気配がしない。

深夜だからではなく…生の香りがしないのだ。魔物の気配もしない。

この世界で、人が人を殺すことは最大の罪とされた。

咎人となる為に、ジェースは組織にこう鍛えられた。

負け犬の匂いを嗅げと、強者は巧みに気配や匂いを断つ。

しかし、負け犬はそんなことはない。

死の香りが新鮮な程…近くにお前の殺すべき者がいる。

(血の匂いは、溢れているが……新鮮ではない)

途中、いくつかの死体を目にした。組織の刺客の成れの果てのようだ。

ジェースは、最上階についた。

そこには、分厚い鉄の扉があった。

ジェースは、それを押し開けた。

中に入ると、夜空が見えた。

屋上ではないが、天井が刳り貫かれていたのだ。


「久々ね。ジェース」

壁の奥に置かれたパソコンの前に、ひかるはいた。

もう七歳ではない。

少なくても、五年近くは経っていた。

「あたしが組織を抜けてしまったから…淋しかったわ。会えなくて…」

ひかるは苦笑すると、空を見上げた。

「あなたが、王の資格を得ているとわかったから…あたしは、組織を抜けたの。どうしてって?だって、あいつら…月を殺しては、いけないっていうから…お父さんを殺した月を」

「ひかる…」

「なあんてね!」

ひかるは笑うと、銃口をジェースに向けた。

「ジェース!あたしが、知らないと思ってたの?お父さんを殺したのが、月に紛れたあなただと!」

ひかる目が血走り、ジェースを射ぬく。

「組織は、お父さんが殺された日に、あたしに約束してくれた!生き残ったら、あたしにお父さんを殺したやつを、教えてくれると!」

ひかるはゆっくりと、ジェースとの間合いを詰めてくる。

「施設にいた仲間達と毎日殺し合い…戦士になったあたしは、真実を知った!だけど、あなたは王の腕!特別な存在!」