「そうだ。もし何かあったら、ここの生徒会長の九鬼真弓に相談したらいい」

「生徒会長?」

ティフィンは首を傾げた。

「ああ。あいつは、君と同じオウパーツを身に付けている」

「オウパーツを!」

カレンの言葉に、驚くティフィン。逆に、ジェースは落ち着いていた。

「…」

無言のジェースに気付き、ティフィンは軽く足で頬を蹴ろうとした。

しかし、ジェースは人差し指でそれを受けると、跳ね返した。

「クッ!」

指先に跳ね返されて、空中をぶっ飛ぶティフィンは、何とか回転して勢いを殺すとカレンのそばで止まった。

「ジェース!」

怒りで、顔を真っ赤にするティフィン。

そんな2人のやり取りを見つめながら、カレンは前を向き歩き出した。

「オウパーツが…」

そう呟くように言うと、ジェースは理事長室の分厚い木の扉を見つめ…追憶の中に沈んだ。






「人がもっとも恐怖を感じるのは…血の匂いでも、絶望でもない」

硝煙とも、煙草の臭いともわからない漂う煙の中、男は歩いていた。

「原始の恐怖は、音だ。映画もまた、映像よりもサウンドで、演出する」

男は、銃口を闇に向けた。

「きゃああああ!」

女の金切り声のような悲鳴が、轟いた。

いや、悲鳴ではない。

それは、銃声だった。

女の悲鳴のような銃声を上げる銃。

その銃を人々は、こう言った。

サイレンス。

その銃声を聞いた人達は、凍り付き、誰もが黙るからだ。

ウーマンズサイレンス。

それは、ある組織の殺し屋の持つ…女の横顔が刻まれた銃の名前。


ジェースに記憶はなかった。

いや、いつ生まれたという幼い頃の記憶がないのだ。

ただ…覚えているのは、女のような銃声だけ。

その声は、ジェースにとって子守り歌だった。