しかし


新しい家庭にも学校にもすっかり慣れ始めた頃


あたしは学校の帰りに,信じられない光景を目にしてしまった。


高そうなビジネスホテルの前に止まっている,見覚えのある黒い車


(あれはお父さんの…)


仕事中だと分かっていても,声を掛けたかったあたしは,車の方へ近づいた。


すると


「お待たせ」


ホテルの中から派手な格好をした若い女が出てきて,当たり前かのように車に乗り込んだのだ。


(誰…?)


あたしは足を止め,走り去っていく車を見つめた。


嫌でも頭をよぎる「浮気」の二文字


でもそれだけで浮気と疑うのはよくない。


仕事関係の人かもしれないし,ただの友人かもしれない。


それにお母さんと紫藤は本当に仲が良かったし…


だからこの日はそんなに深刻にはならず,何事もなかったかのようにあたしは家に帰った。


その後,紫藤の方もいつもと変わらずあたしやお母さんに接してきたので,やっぱりあたしの思い過ごしだったんだとひと安心した。