7月14日(事件発生1日前)

この日は月に1度行われる模試があったため,帰りがいつもより遅くなった。


タクシーに揺られながら窓の外をボーッと眺めていると


ポツ…ポツ…


雨だ


車のワイパーがゆっくりと動き出す


ザーーーッ


雨は次第に強さを増し,ワイパーも動くスピードを上げる。


「こりゃぁ朝まで止まないなー」


運転手の安住さんが独り言のように呟いた。


安住さんは紫藤グループ専属のタクシー運転手で,塾の送り迎えはいつも安住さんにお願いしている。


「あーぁ,最近雨ばっかだねー」

「穣吏ちゃんは雨が嫌いなのかい?」

「うん,嫌い。なんか暗い気持ちになるから」

「そうかい?おじさんは雨好きだけどなー」


「えぇー?」


そんな会話をしているうちに,車はあたしの家の前で止まった。


雨は相変わらず降り続いている。


「あ,後ろにビニール傘があるから使いなさい」


「いいよ,すぐそこだし!ありがとうございました」


あたしはタクシーを降りてから,玄関までの数メートルを猛ダッシュした。


そしてそのまま急いで中に入ろうとしたとき,車庫に紫藤の車が止めてあることに気付いた。


(今日は珍しく早く帰ってきたんだ…)


そう思った瞬間

ガシャン!!


何かが割れる音がした。


(なに…?)