「気にしなくていいよ」

 彼女を好きになる人も少なからずいた。その中には幼いあたしに親切にしてくれる人もいた。

 それでも彼女は誰とも結婚することはなかった。

 もしかするとつきあっていることはあったのかもしれないけれど、あたしの知る間には一人もいなかったのだ。

 そこまで彼女はあたしの父親を好きだったのだろうか。でも母親はあたしにその話をしてくれたことはなかった。

 彼女が本当な何を考えているのかは分からなかった。

 でもそこまで母親が父親のことを好きなら、母親がそこまで愛した人の姿をあたしは一度見てみたいと思っていた。

 それが叶わない夢だと分かっていても。