あたしは前方を歩く、彼の姿を見据えた。

 彼はあたしが歩くのが遅いのか気になったのだろう。

 ゆっくりと振り返る。

「体調でも悪い?」

 あたしは首を横に振る。

 そして、少し離れた彼との距離をつめるために歩を進めた。



 あたしたちが家の中に入ると、あたしの携帯が鳴った。

 発信者は母親だった。

「早めに駅に着いたけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。もう家だから」

 彼女と会うのは入籍のとき以来だった。

 あたしは携帯をテーブルの上に置く。

「もう駅に着いたんだって」

「早いな」

「何でも早めに行動しないと気がすまない人だからね」

 尚志さんは優しい笑みを浮かべている。

「そういえば、さっき、何の本を買ったの?」

 本が好きな彼が本を買うのは別に珍しいことでもなかった。

「本当は本だけじゃなくてさ」