あたしが彼女の部屋をノックする。

 でも、返事はなかった。

 しかし、ドアが半開きになっていて、木下さんの姿が見えた。

 あたしが彼女に話しかけようとしたときだった。

 彼女の手に電話機が握られているのに気づく。

 誰と何を話しているのだろう。

 あたしにはそんな疑問が過ぎる。

 でもあたしがそんなことを気にするより前に、木下さんの話し声が聞こえてきた。

「分かりました。検討はしてみますが、いい返事ができるかは分かりません。はい、すみません」

 その言葉が切れるのを待って、あたしは彼女の名前を呼んだ。

 彼女はあたしと目が合うと、笑顔を浮かべた。

「どうしたの?」

 木下さんが驚いたように目を見開いた。

「あの、あたしに仕事がきているって杉田さんから聞いたけど」

「彼から聞いたのね。あなたに仕事はきていることはきているわ」