杉田さんがあたしの髪の毛に触れた。

 あたしが彼を見ると、彼は苦笑いを浮かべていた。

「まず、ぎっしりつまっているんだよね。僕のスケジュール。勝手に仕事入れてさ。このままじゃ大学が不安になるよ」

 彼はため息混じりに呟いた。

 半ば強制的なやらないといけないことなのかもしれない。でも迷うあたしには少し羨ましい。

「ぎっしりって、すごい。あたしはまだ来てないのに」

 彼は肩をすくめて微笑んだ。

「本当にそう思う?」

 彼の口調はあたしの言葉を否定しているとすぐに分かった。

 彼はあたしの心を見透かしたように言った。

「きているみたいだよ。でも、君が迷っているから話を持ち出さないだけでさ」

「本当に?」

「それっぽいことを聞いたからね」

「ちょっと聞いてくる」

「そうしたらいいよ」

 あたしは杉田さんに見送られ、木下さんの部屋に行くことにした。