彼の手があたしの頬に触れた。

 優しい手だった。

 あたしは彼の手に導かれるようにして目を閉じた。

 唇に優しい感触を感じる。

 あたしの胸が自然と高鳴っていく。

 しばらく経って彼の唇がゆっくりと離れた。

 嫌なことなんてなかった。

 あたしは目を開けた。

 優しく微笑む彼の姿があった。

 彼の手があたしの手に触れる。

「カット」

 秀樹さんの声が辺りに響き渡った。

「やった。よかったよ。京香」

 あたしにそう言ってだきついてきたのは千春だった。

 彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 彼女はよほど全速力で走ってきたのだろう。

 彼女の被っていた麦藁帽子が途中で地面に転がっていたのだ。