彼女は息を吐いた。長いため息だった。

 その息がはき終ると彼女は言葉を綴り出す。

「父親のためなの」

 千春は目に涙をためて、呟いた。

「お父さん?」

「彼は母親の幻影をずっと追い続けていた。母親を愛していたのは分かる。でも、彼女を愛しすぎて彼女の死を受け入れられなかったの。

彼が家を出たのもその現実を受け入れなかったから」

 千春は首を横に振る。

「それを彼に受け入れさせるためにね、あたしたちは考えたの。

あの映画で彼女以上の逸材を見つけようって。

それに反対していたのは兄だったけど、あたしが押し切った。

父親に帰ってきてほしかったから。伯父さんはあたしが諦めると思っていたのだと思う。あたししか演じられないって言っていたから」

 以前、千春が言っていた。

 父親は母親に魅入られたのだ、と。

 その理由にやっと気づく。