きっと彼女は叶うことがないと思っているのだろう。

 自分の気持ちが。

「いつから?」

「ずっと分からなかった。自覚したのは本当に最近だったから」

 彼女は肩をすくめると、言葉を続ける。

「多分、そんな気持ちは五歳くらいからあったかな。

ずっと一緒にいたし、優しいから、一緒にいたいなって。

でも、あのときは自分の気持ちが分からなかったし、会えなくなって寂しくてもどこかで諦めないといけないと思っていたから」

「言ってくれればよかったのに」

「だって、自分を好きになってくれない人を思い続けたら、迷惑だから。

忘れないといけないと思ったから。

映画のために会うようになって、やっぱり彼と一緒にいたいな、って思うようになって、自分の気持ちに気づいて。

でも、やっぱり最初はこれが好きって気持ちなのか分からなかった」

 千春の目に涙が浮かぶ。

 彼女は言葉を選びながらも何度も同じような言葉を繰り返していた。

 理知的で無駄な言葉を話さない彼女がそんな風に話すのを初めて聞いた。