あたしは一時間後に千春の部屋をノックする。尚志さんが千春の部屋に入る前に彼女と話をしたかったからだ。

「どうぞ」

 耳をすまさないと聞こえないほど小さな千春の声だった。

 あたしは音をたてずに千春の部屋に入る。

 そこには杉田さんが、千春のベッドに伏せるように眠っていたのだ。

「杉田さん」

 あたしが彼を起こそうとするのを千春が制した。

「きっと疲れていると思うから、もう少し寝かせておいていいかな」

「いいけど、体調は?」

「多分、平気」

 あたしは千春の額に触れた。しかし、彼女の額はやはり熱っぽい。

「無理はしないでね」

 千春は頷く。

「康ちゃんは頑張り屋だから、いつも人の何倍も頑張っちゃうんだよね」

 優しい笑みで彼の寝顔を見つめている。

 あたしが今までに見たどんな笑みよりも優しい笑み。