「あなたは分からなくていいのよ。分かったらそれが自然なものではなくなるし。少なくともあなたはこの役が終わるまでは今のままでいないといけないから」

 彼女の言っていることは難しい。

 分かるけど、分からない。そんな話だった。

「本当は彼も復帰する気はなかったのよ。もう別の人生を歩むことを決めたし、今更戻るつもりはないって」

「もしかして杉田さんのことですか?」

 木下さんは頷いた。

「どうして?」

 あたしは彼は俳優になりたいのだと思っていた。

 だから留年覚悟で俳優をやっている、と。

「千春ちゃんに口説かれたみたい。絶対に彼しかいないって。それに彼、あなたを見て決めたって言っていた」

「あたしを見て?」

 あたしが杉田さんにあったのは、大学が最初だ。