「どうして?」

「この映画が撮り終わったら、君にもいくらか仕事のオファーがあると思うから。そうしたら今のように好き勝手には会えなくなるかもしれない」

「そんなこと」

 あればいいけど、仕事のオファーが来るとは考えにくかった。

 きっとあたしは来年、何事もなかったように大学に通っているのかもしれない。

 なんとなくそう考えていたのだ。

 でも、そう思ったのには理由があるのだろう。

「もしかして杉田さんには来ているの?」

「いくつかはね」

「どんな仕事?」

「それは今のところは秘密」

 簡単に人にそうそう話をしていいわけがないから。

 あたしは表情を緩めた。

「でも、すごいね。どうして?」

「どうしてだろうね。でも多分監督のつてだと思うよ」

「そうなの?」

「多分ね。昔、会ったことある人からだから」

 彼は肩をすくめる。どう反応していいか分からないと言いたそうだった。

 あたしにも彼のように仕事が来たら、それはそれでいいのかもしれない。

 そうしたら彼のことを忘れることができるかもしれないから。



 千春と尚志さんは次の日に帰っていった。

 あたしは残念な気持ちを持ちつつもこれでいいのだと思おうとしたのだ。