「そうだね」

 彼女は屈託のない笑顔を浮かべていた。

「そういえば、君のお母さんからこれを預かってきたよ」

 杉田さんは鞄の中から白いビニール袋を取り出した。そこからは夏ミカンが覗いている。

「お母さん、そんなものを渡したの? こっちでも買えるのに」

 あたしは受け取る。

「僕が何か渡したいものがあったらって無理を言ったからだと思うよ」

 彼は笑顔で答える。

 でも渡さないという選択肢もあったと思うけど。

 嬉しいことは嬉しかった。

「ありがとう」

 あたしは素直にお礼を言った。

 そのとき、低い声が辺りに響く。

「玄関が騒がしいと思ったら」