「でね、京香の名前は何にする? 本名のままでもいいことはいいけど」

 彼女はあたしを見ながら首をかしげる。

 今、あたしたちは事務所のあるビルの一室にいた。

 千春はメモとペンを取り出し、メモの準備をし終えていた。

「名前?」

 芸名というやつだろうか。

 そういえば考えたこともなかった。

「本名のほうがいいの?」

「あたしは別の名前のほうがいいと思う。そっちのほうが何かと便利だから。でも、あたしのときとは違って、一般に本名が広く知れ渡る可能性もあるから、意味はないのかもしれないけど」

「千春は秋ちゃんだったんだよね」

「春だからね」

「そんな理由で決めたの?」

 確かに春と対比することができる季節は秋だとは思う。でもそれをそのまま芸名にするのは驚きだった。