すごい。

 素直にそう思えたのだ。

 セリフを言ったわけでもない。

 それでも彼は少年になっていたのだ。

 千春もすごいと思った。でも、彼もそうだった。

 彼の瞳にぬくもりが戻る。

 顔を綻ばせていた。

「どうだった? 見える?」

「見える。勇に見えるよ」

 勇とはあの映画の男の子の名前だった。

 あたしは彼の手をつかんだ。

「よかった」

 彼は目を細める。

 今でもドキドキしている。

 こんな優しい目をした人が一瞬で別人のようになったのがすごいと思っていた。

「これからよろしくね。でも、迷惑をかけてしまうかも」

「そんなこと気にしなくていいよ」

 あたしは彼が差し出した手をしっかりと握った。

 これから始まる撮影が楽しみで仕方なかった。