「相手役って決まったの?」

「決まったよ。結構かっこいい人だよ」

 千春は嬉しそうに言った。彼女のそんな表情を見て、この場に弘がいなくてよかったと思っていた。

 あたしは脚本の内容を思い出しながら胸を高鳴らせる。

 千春に聞こえそうなくらい激しい心臓の音を意識しながら彼女を見た。

「で、誰?」

 千春は自分のお弁当の蓋を開け、首をかしげる。

「名前言っても分からないと思う。でもいい人だよ。あたしのよく知っている人だし」

 あたしは「知っている人」という言葉から尚志さんのことを一瞬考えていた。

 こんな願望を抱いてしまってどうするのだろう。

 尚志さんなら名前を言って分からない人のわけがないのだ。

「だから今日会いに行こうよ。向こうには許可を取っているから、さ」

 彼女はウキウキ感がにじみ出るような明るい声であたしにそう告げた。

「分かった」

 きっと悪い人ではないのだろう。千春の知り合いなのだから。