母親は眉間にしわを寄せてあたしを見た。

「もしかしてその監督って」

「成宮、なんて言ったかな」

「成宮秀樹」

 抑揚のない声だった。

「そう! そんな感じだった。だからお母さんともよく話をしてって」

 母親の手があたしの頬に触れる。

 洗ったばかりだからだろうか。帰ってきたばかりだからだろうか。

 彼女の手は冷え切っていた。

「京香が選んだなら私は反対しないわ。でも、その人の連絡先を教えてくれる?
 その前に話をしておきたいから」

 彼女は唇を噛み締めていた。

 あたしはどうして母親がそんな表情をするのか分からなかった。

 あたしは千春から聞いておいた連絡先を母親に伝えた。

「少しだけ返事をするのは待っていてくれる? できるだけ反対はしないから」
 あたしは彼女の言葉に頷いた。