でもこの本を書いた彼の父親はどこにいるのだろう。

 生きてはいるみたいだった。

 尚志さんが黒の紙袋を持って部屋の中に入ってきた。

 あたしはその紙袋を受け取ると、本を五冊ほど入れた。

「俺の部屋にも新刊が何冊かあるかな。持ってくるよ」

 尚志さんの部屋という言葉に反応していた。

 男の人の部屋ってどんなものなのだろう。

 見てみたいという欲求に駆られる。

「あたしも行っていいですか?」

「いいよ」

 彼は戸惑うこともなく、即答した。