あたしは彼らの父親の本を手に取る。

「久明って本名なんですか?」

「いいや、本名は尚明。読みにくいから久にしたって言ってた。ちなみは藤井は適当だって」

 あたしはその話を聞いて笑みを浮かべた。

 尚志さんの父親が書いた本だと思うと、不思議な気がしてきた。

「この本を借りてもいいですか?」

「いいよ。紙袋かなにか持ってくるよ」

 彼はそう言い残すと部屋を出て行く。

 あたしの知らない尚志さんの過去をこの人は知っているのだろう。

 その本の発行日を見ると二十三年前だった。あたしも尚志さんも生まれてはいなかった。

 あたしのお母さんがお父さんに出会う前に書かれた話だと思うと不思議な気分になっていく。