尚志さんが扉を開けた。

 そこには本棚がぎっしりと並んでいた。もちろん、その中には本が並べられている。

「ここに読まない本とか入れているから。好きな本があったら適当に選んでよ」

 あたしたちは部屋の中に入る。

 あたしはその中に藤井久明の名前を見つける。

 千春たちのお父さんの名前だった。

「親父の本? ほとんどミステリーばっかりだけど、ミステリーとか好き?」

「好きです。でも恋愛小説を書いているのかと思ってました」

「映画のことを聞いたからかな」

 あたしは頷いた。

「あの映画は滅多に恋愛小説を書かない父親が書いたから話題になったんだろうな。いつもは人が殺される話ばかりだからね」