「……猫?」

「ええ。あのあなたの裏切り者ですよ」

「…!!」



ケルベロスの言葉でハッと思いだす。

右ポケットに手を入れると預かったままのチョーカーが入っていた。
預かってからそのままポケットに入れて忘れてしまっていたらしい。




「それを返していただけませんか?」

「は?」



自分でも顔が歪んだのがわかった。



「あなた様を裏切った奴の約束なんて守る必要ないでしょう?」

「それは…っ」



そうだとポケットから出そうとした瞬間、脳裏をユイの声が遮った。







“リュウに持っててほしい”







「…………ッ」

「リュウ様?」



約束…。

思えば出会ったときから会話の節々におかしいなと思うところがあって。
それに僕は気づいていたのに、なんのちからにもなっていたなかった。


いま思えばあの告白も本当の言葉だったのかさえ疑わしい。

疑いだしたらきりがないんだろう。




でも…



「…今日は持っていない」

「……ふふ。そうですか。それは残念です」



別にこれは約束を守ろうとしているわけではない。

でも何故か自分で持っていたかった。
自分の手でチョーカーを返して呪縛から解放されたかった。それは逃げでしかないのかもしれないけれど…


ケルベロスは気づいている。
僕の嘘にも、考えていることもすべて。

わかっているからこそ、もっと嫌な笑みを浮かべているのだろう。




「リュウ様、このあいだだしたヒントはわかりましたか?」


「…………」




僕はそんなケルベロスの言葉を無視して倉庫を跡にした。

後ろで口笛が聴こえたけど、振り返ることはなく。




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