あるポイントを通過すると、R33は違う顔を見せ始める。
さーはシフトダウンをする。
メータの針は一気に上る。
さーのR33は、車外のマフラーが入っているのだが、明らかにさっきの音とは違った音を奏でる。
奏でるというより吠える。
舞子は何が起こったのか理解できなかった。
舞子の車もMT車ではあったが、1000CCの小型でこんな音はしない。

吠えるマフラー
響くE/g

それはさーの車だけではなかった。
さーの車の先を行く車、抜いていく車、みなそうだった。
目まぐるしく変化する景色に、さっきよりもスピードが上がっていることがわかる。

何かが違う!

そう思った舞子は、車に必死にしがみついた。

状況に慣れてきた舞子は、おそるおそるクォーターガラスから景色をみてみる。
オレンジの街灯だけが、残像のように現れては消えていく。

何度も何度もコーナーを抜け、ようやくR33が止まったのは、それから10分も経過してからだった。

のたうちまわるように車から降りると、そこは不思議な世界だった。
2車線道路の路肩にびっしりと車、それも同じような音をする車ばかりがずらりと並んでいた。
そして、同世代の男の子たち。
ある者は談笑し、ある者はE/gを見ていた。
女子高校女子短大を卒業した舞子にとって、同世代の男の子がたくさんいる場所は恐怖だった。
男の子と音。
そして何か焼けるようなにおい。
舞子はどこか別世界へつれてこられてしまって、身動きができなくなってしまったように錯覚した。
呆然と立ちすくむ舞子に気づいた隆がようやく声をかける。
「舞子、大丈夫?」
隆の声でようやく我にかえる。
さーは当然のこととして、隆もまっちゃんも何度か来ているようで慣れていた。
「びっくりした?」
「びっくりするも何も!」
後の言葉に詰まった。
どう伝えたら良いのかがわからない。
初体験。
それなのに、ワクワクするようなそんな気持ちもあった。
さーはE/gをつけたまま、タバコをふかしていた。