有香は笑って見せた。


でも、その目にはうっすら涙がまだ溜まっていて「無理した笑顔」だってすぐ分かる。


「梓に…やっぱ帰るって伝えて?」


有香の声は震えていた。

それに気づいたとたん俺は有香の顔を見る事ができずサッと下を向いた。


分かった、と伝えて俺はその場に立ち尽くす。


有香の足音が後ろから聞こえてくるが俺は振り向かなかった。

振り向いたらまた、愛しく思ってしまうから。


『あ、上着・・・』


自分が上着を着てないことに気づき、一度病室に戻る事にした。


病室に戻ると開いている窓の外を寂しそうに眺める梓がいた。


梓は俺に気づくとニコッと寂しく笑って「どこ行ってた?」と聞いてきた。


『コンビ二・・・』


適当に答えて上着を着る。


『・・有香が先に帰るってさ』


「・・・あぁ」


あれ、大丈夫だったかな?

後から気づいたけど俺、今、有香って呼び捨てで呼んでしまった。


いつもそう呼んでいるからいいだろうけど梓はどう思っただろう?

いくら弟だからって彼女の名前を呼び捨てで呼ばれたら少しは嫌だ、と思うんじゃないか?


でも、梓の顔を見ると梓は意外にも涼しい顔で窓の外を眺めていた。