「梓の所に・・・行ったら?」


有香とは目もあわせることができない。


こんな張り詰めたような空気に耐えられなくて俺は有香に声をかけた。


「そ・・・だね」


・・・行くな。


心ではそう思ってる。


でも、俺は弱かった。
そんなこと有香にいえなかった。


去っていく有香の小さな背中がいつも以上に小さく見えて。

抱きしめたい衝動に駆られたが俺は必死に抑えてその場に立ち尽くした。



しばらくは夕映えの空が暗く染まっていくのをぼんやりと眺めていたが、寒くなってきたので一度梓の病室に上着を取りに戻ることにした。


有香がいるかもしれないけど、そしたら上着だけもって帰ればいいだけ。


そう思って梓の病室に着いたとき、俺の目に映った光景に俺の心は強く痛んだ。


有香と梓が抱き合っている・・・



そりゃそうだ。

本人の意思なしで別れたカップルが再会したら抱き合ったりしたっておかしくない。


ずっと、会いたいと思っていたのだから。


その気持ちは有香からも梓からも感じていた。
お互い、会いたい、と思っていたんだ。
別れても愛し合っていた。


そこに俺の入る隙なんかない。
ずうずうしいにもほどがあるな。


そう思って俺は病室を後にした。

目を閉じて浮かんでくるのは抱き合っている有香と梓。