俺は願うように有香を見て名前を呼んだ。


『あの時はごめん。仕方がなかった―・・・』


あの時・・・有香と梓が別れた日。


梓が有香に傷を残して去ってきた日。


「どういう事?」


有香が俺を見上げて聞いてくる。

俺は誤魔化そうとちょっと笑ったけどそれは乾いた笑いだった。


どういう事って、そんな事いえないだろ。


――“梓は病気だから”なんて。


俺の口からいえない。

言っちゃいけない。


一度下を向いた顔をまた上げて俺は有香を見た。


きっと、有香もいつか知ることになる。


俺と梓の本当のこと。


もう、隠す事はできなくなっているんだ。


『…いつか、絶対に言うから』


誓うように力強く俺は言った。


有香が優しく笑った。

でも目はとても真直ぐで真剣で。


「信じるよ、梓」


俺の事を愛しそうに見てくれるその瞳に俺の胸は熱くなる。