「こんな時にふざけないで!!」


海の波の音さえ聞こえなくなってしまうような大きな有香の声。


『ふざけてないよ』


自分でも驚くくらいに落ち着いた声が出ていた。

もしかしたら諦めかけていたのかもしれない。

有香に“梓”と偽って、近づくようなチャンスが失うと、思っていた。


でもやっぱりどこかで願ってた。


本当の俺を知っても愛して欲しい、と。
恋人としてじゃなくても良い。友達としてでも愛して欲しい。


その時、有香の頬に涙が光った。


ハッとした。


俺、なにしてるんだろ。


『ごめん、冗談いきすぎた・・・』


そう言って誤魔化したものの有香の困った顔は笑顔にはならなくて。

まるで疑っているような視線まで感じた。


・・・まだ、気づいてほしくない。


いつかは終わりが来るこの関係も今はまだ終わって欲しくない。

あと、少しでいいから。


有香、俺の傍にいて―・・・?