「こんなの…梓じゃないよ」


心臓がドキリとした。
少し冷や汗もかいたらしい。


でもすぐに焦りは嫉妬へ変わっていった。


やっぱりコイツは俺のこと梓だと思ってる。


梓しか愛してないんだ。


それは仕方のないこと。


そう言いきかせても俺の嫉妬はふくらんでいくばかりだ。


『…だとしたら?』


考えるより先に声が出ていた。

有香がえ?というように目を大きく見開き、俺を見る。


『もし俺が梓じゃなかったらどうする?』


・・・こんなこといったら俺が梓じゃないってバレちゃうんじゃないか?

少し不安になった。


有香も混乱したような顔で眉間にしわを寄せている。


でも、俺は聞きたかったんだ。


有香の口から。


俺が梓じゃなくても有香に愛してもらえるという可能性を――。


馬鹿みたいかもしれないけど、知りたくて仕方がなかった。


「梓・・・?」


俺は有香の目を見つめた。


少しだけ有香の目が震える。