君を乗せた長距離バスが見えなくなるまで僕は夜の新宿で1人たたずんでいた。

バスの形跡もなくなった頃、左手の小指を確認する。

そこにはタイ文字で「アリス」と書かれた小さなリングがピッタリとはまっていた。




「え・・・ありがとう」

そう言った後、君は思い出したかのように、
「そういえばBOYは指輪とかアクセするの好きって言ってたよね?」
と1つ手を打った。

カバンの中の小さなプラスチックケースから何かを取り出す。
「これタイで作ったんだけど、どうしてもサイズが合わないの。BOYはめてみる?」

それは銀でできた小さなリングだった。
「かわいいね。」

タイ文字で書くと『アリス』ってかわいいな(笑)


僕は試しに左手の小指に入れてみる。
するとまるで僕のサイズで仕上げたようにしっくりはまった。

「あ〜。いいなぁ。ピッタリじゃん!」
君はちょっとスネたようにも聞こえる声で言った。

「ちゃんと私のサイズ測ったのに〜。しかもBOY似合うし悔しい!」

「くれるの?」
「でも『アリス』だよ?」
「うん。いい。」
「欲しいの??」
「うん。」
「じゃぁ・・・あげないけど大切に持ってて。」




そういたずらっこのように笑った君の顔からは、もう辛さの影は消えていた。



ちょっと自惚れてもいいよね・・・この笑顔は僕が作ってあげられたんだよね?

僕はリングをなぞりながら君の笑顔を思い浮かべた。