「あの・・・ちょっと相談があるんだけど。」

君からこう切り出されたのは、2人ともカクテルを2杯飲み終わろうとしていたときだった。

「なに?」

君の表情がちょっと曇る。
「BOYはBKのお母さんに会ったことあるよね?」

そう君が話し始めた内容はこうだった。

僕と君を結んだ悪友:BK(ちなみにこれもあだ名だ)の弟はタイの若者の間でちょっとした人気のタレントをやっている。
アリスは以前にタイを訪れた時、この弟の出演するイベントに行ったそうだ。
『日本から来たファンだ!』ということで気を利かせたスタッフが、イベント終了後に楽屋に招いて一緒に写真を撮らせたらしい。
そしてBKがちょうどその場に居合わせて意気投合して友達となった。
その後アリスがタイに行くたびにBKはもちろん家族ぐるみで歓迎してくれていたそうだ。

それを良く思わなかった現地の数名のFAN。
(もちろん『日本人来たー!一緒に応援しよう!』と喜んでくれるFANのほうが多い。)

最近、そのFAN達がBK(と弟)の母にアリスの悪口をある事ない事吹き込み、今まで歓迎してくれていた母の態度が急転したというのだ。

一緒に食事をしたり買い物につれて行ってくれたりと、暖かく接してくれていた母の急な対応の変化にアリスは戸惑っていた。

もちろんアリスとBKは弟の事とは関係なく、本当に気の合う友人関係だ。


「それって・・・ひどい。」
君の話を聞いた僕は、君の泣き出しそうな顔をみて胸が締め付けられた。

「うん。まぁFANのこの気持ちもわかるんだけどさ。」
「でもアリス悪くないよ。」
「う〜ん。そのFANにとっては悪者かも?(笑)」

沈んだ表情のままで無理に笑ってみせる君はとても痛々しかったよ。
僕はそんな君をみたとき『僕がなんとかしてあげたい』って本気で思ったんだ。

「なんでチャットでこのことを僕に話さなかったの?」
「だって自分が悪いのかなって思ってたから・・・BKのお母さんも本当はいい人だし。」
「まぁ、BKのお母さんも周りの言葉に気にする人だから・・・」

なんで僕は気の利いた言葉の一つもかけられないんだろう・・・。




そしてとうとう店を出なければいけない時間になってしまった。