「……お、おい。」

「……っ、」

「お前、まさか泣いてんの?」

「………う~っ!」

「紅葉、」

「泣いてない~っ!」



いやいや、泣いてんじゃん。


「…ぷっ。」

「何笑ってんのよっ!」

「いや…、」


泣いたり怒ったり
ころころと忙しーヤツ。


でも―――。




「トリック オア トリート。」

「……え?」

「え?じゃねーよ。トリック オア トリート!」



そんな俺に
紅葉は困ったような顔で

「い、急いで来たからお菓子なんてないもん!」

そう言いながら俺を見る。




だから俺は言った。



「別にお菓子なんかいらねーよ。」


俺が欲しいのは―――。







「……颯?」


耳元に聞こえる声に、戸惑いの色が混じってる。

二人分の鼓動が、どちらのモノかわからない。



けど温もりの伝わる距離が、どーしようもなく愛しくて。



「ちょ…っ、颯どうし――」

ジタバタと腕の中で暴れる紅葉の顔を、力任せに自分へ引き寄せた。



そして―――。


「もう黙れ、バカ。」


塞いだ唇から
この気持ちまるごと、伝わってしまえばいいと思った。