お姉さんは
ニコっと笑って更に続けた。
「子供たちが魔女や何かに仮装して、近所の家にお菓子をもらう為、歩いて回るんです。」
そこで使う言葉が
“トリック オア トリート”
「もらったお菓子をそれぞれ持ち帰って、パーティをする。それがハロウィンですよ。」
「…へぇ、」
と、納得した声をあげたのは隣に居る樹だった。
一方の俺は、さっきから一点を見つめ、濁流のごとく溢れる感情を止められない。
怒った顔、拗ねた顔、驚いた顔、大口を開けて笑う顔――。
色んな紅葉が頭を過ぎって。
「…トリック オア トリート、」
そう声に出した瞬間
プツン、とテレビの電源が消えるみたいに
目の前が真っ白になった。
何かが俺の中で弾け
ぐらり、と脳が揺れる。
鳴らされるクラクション。
体に受けた衝撃と、投げ出された感覚。
最後に聞こえたのは―――。
『颯―――!』
「……颯?おい、颯っ!」
「………っ!」
「どうした!?具合悪いのか!?颯!」
体に力が入らない。
呼吸が、上手く出来ない。
歪んでゆく視界が
次第に全てを遠ざけた。