「嘘だ、こんなの…!」

それでも、俺はその事実を認められずにいた。


当たり前だろう。
だってついさっきまで俺は紅葉と話していたんだ。

喧嘩して
いつもみたいに言い合って。



なのに、何故?


信じる方が難しい。
ドッキリだと言われた方が、まだ信じられる。



頭を抱える俺を見て
隣に座り込んだ樹は、よく出来た兄貴のような口調で言った。


「なぁ、お前ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」

「………、」

「疲れてるんだよ、きっと。」



…ふざけんな。
誰が疲れてるって?

誰が、頭おかしいって?


俺は事実を言ってるだけだ。

お前らの頭がイッちゃってんじゃねぇの?



そう思ったものの
目の前に映る景色は変わらない。

だから、それが事実なんだろう。



――この“世界”の事実。



「…悪ぃ、俺帰るわ。」

「……本当に大丈夫か?」

「あぁ。」


素っ気なく答え
俺はのそっと立ち上がる。

樹は心配そうに俺を見ていたけれど、その視線に気付かないフリをして背中を向けた。



歩き出す俺の脳裏に響くのは

『颯のバーカ!』

耳にタコが出来るくらい、何度も聞いた紅葉の憎まれ口だった。