「私の家は…お兄ちゃんと二人だったから、結構、静かな家庭だったわ」

と月子が言った。

「両親亡くなったって、病気?それとも事故?」
と修二が聞く。

「…お母さんは…子宮ガン…それも気付いたのって、もう末期も過ぎてたわ…手術不可能って…」

「…ごめん、嫌な事聞いたね… 」

「ううん、大丈夫よ、もう何年も前だもん。父はね……事故…交通事故…ヤクザの車に跳ねられて…背中に墨の入った男に……。父は役所勤めの真面目な人だった。だから…私…ヤクザなんて大嫌い…入れ墨なんて、見ただけで吐き気…もうムカムカしてくるの…」


嘘つき月子…でもその嘘で、傷つく奴は今まで誰もいなかった。

初めて人を傷つけた、修二の胸にグサリとナイフが刺さった…ことに月子は気付く筈もないが……。

真面目な父…と言ったセリフ、嘘つきと簡単に片付けないで、本当に今でも夢見る、それは月子の理想の親だったから……。