兄は月子に背を向け、突如聞いてきた。

「あの男のもとに行くのか?」

月子は言葉に詰まった。

「……」

「そうなんだな…」

「……」

返事ない返答が、月子の答え……。

兄は泣いている…顔は見えぬが泣いている、きっと泣いている。

妹が大好きで、可愛くて、可哀想で、心配で、不憫で、今まで…体一杯で愛してきた……俺の言う事を聞かない妹よ………。

誰に頼る事もなく妹を守ってきた…その誠実な強い背中が…泣いている。

「お兄ちゃん…ごめん……」

龍子を殴っていいよ、殴って殴って……私を非難して……。

お兄ちゃん、私に背を向けてどんな顔してるの?

殴って少しでも、兄ちゃんの怒りが取れるなら、私…どんな痛みにも堪えるよ。

でもね、体に受ける痛みより、修二さんを諦める痛みの方が勝っているの…もう、どうしようもないの。

月子の目からは涙が溢れ……兄の反応をただ待っている。

兄の肩は震えていた、と、

「勝手にしろ、好きにすればいい」

「お兄ちゃん…」

兄が振り返った。

悪い妹よ…この兄は、親が死んだ時でさえ涙を見せなかった強い男なんだよ。

この男泣かすのは、月子、お前だけ…。