そこは、この兄妹が幼い頃によく遊んだ公園だった。
父も母も殆んど家に居る事はなく、兄は自分の友達もそっち退け、ずっと妹の遊び相手になってやっていた。
静まり返った夜の公園で、高く聳え立ったライトが、二人を照らしていた。
月子はブランコに腰掛け、ゆっくり漕ぎ始めた。
キーキーと鉄の軋む音が、二人をノスタルジアに連れて行く。
兄は、トントントンと軽快に滑り台の階段を登った。
そして、スーっと滑った。
兄が下に降りた時、ブランコに揺られながら、月子が喋り出した。
「お兄ちゃん、お父さんの事、まだ恨んでる?」
「………」
兄は無言だった、滑り台の降りた下に座ったまま……月子の顔を見ようとはしなかった。
月子は続けた。
「お母さんの最後の死に顔…お兄ちゃん、覚えてる?」
「……」
兄は遠くを見たまま、月子を振り返らない。
月子には…兄の表情が掴めない。
勘の良い兄は…妹が何を言いたいのか、何を言おうとしているのか、徐々に飲み込んでいった。