日曜日…はムーンライトの定休日。
月子は料理に手をかけ、凍らせたグラスに原田の好きなビールを注いだ。
原田はこの世の至福とばかり、上機嫌だった。
数分後に奈落の底に落とされる事も知らないで……。
「お父さん、聞いてほしい事があるの」
「何だ?」
「今までしてくれた事は、本当に感謝してるわ」
「……」
奈落の淵まで…月子に背を押された事…原田は感じ取った…顔が微妙に歪む。
「私ね、ずっと考えてたんだけど、このままでは店も赤字続きで、この先の目処もたちそうにないのよ。それで……このままずるずる続けていくより、もう店を閉めた方がいいような気がして……」
「そうか…じゃ、そろそろ二人で何か始めるか?」
ここが奈落の淵だと……認めたくない原田。
「違うのよ、お父さん…お父さんには離婚なんてして欲しくない、ここのマンションも私は要らないから、売ったらある程度のお金になるでしょ?それを持って、奥さんのもとに帰ってあげて…私は、またもとに戻って、一人で生きてみる…別れてほしいのよ……」
月子は様子を伺いながら、上目遣いで原田を見た。
原田の心が…落ちて行く…奈落の底に…凄いスピードで…。