それから、原田の生活パターンが変わった。
印刷工場の仕事が終わると、月子の部屋には来ないで、店に直行する。
開店と同時に店に入り、月子を待つ。
そして、閉店すると、月子の部屋へ二人で帰ると言うパターンが始まった。
どこの席にいても、原田の視線を感じた。
何を話していても、原田が聞き耳を立てていた。
見えぬ縄は、月子の体をぐいぐい締め付けた。
そんなある夜、店にやって来たのだ、修二が……。
ボックス席に座り、ボーイが酒の仕度を持っていった。
修二さんだ!
どうしよう…カウンターには原田が……。
でも席に行かなくては……。
「いらっしゃいませ」
月子の態度はぎこちなかった。
「この近くに用があってさ、顔だけ見に来たよ。そう長くはいられないんだけど、一杯だけ飲んで帰るよ。迷惑じゃなかったか?」
「迷惑だなんて…私も顔見れて嬉しいわ」
原田が、原田が…こっちを見てる…。
修二さん、あなたに会えた…嬉し過ぎるくらい嬉しいの…でも…素直に態度に出せない訳が…訳があるのよ……。